最高裁決定 本件抗告を棄却する

 『婚姻費用の算定において婚外子の養育費は考慮しない』

 大阪高裁平成29年(ラ)第1204号

(原審 京都家裁平成29年(家)第1237号、第1238号

『婚姻費用の分担金は,公平の観点から一切の事情を考慮して定められるものであって,

原審申立人が不貞行為に及んだ結果,上記3名の子が出生したこと

を含む原審申立人と原審相手方が別居に至った経緯や原審申立人の収入,さらにBの稼働能力等,

本件における一切の事情を考慮して算定したものであるから,その判断に当たって

上記3名の子の生活費を具体的に考慮しなかったからといって,

ただちに上記3名の子らの養育を受ける権利を侵害し,

憲法第14条第1項に違反するとはいえず

また,原審申立人の婚姻費用分担額を変更すべき程度の事情の変更があったと認められない』

 

として、婚姻費用算定において婚外子の養育費を考慮しないこととした。 

上記決定に対して、憲法第14条第1項違反等を理由としての最高裁への特別抗告理由は以下である。

 

この特別抗告に対して、最高裁は平成30年4月9日(平成30年(ク)第242号、第243号)において、

『本件各抗告の理由は,違憲をいうが,その実質は単なる法令違反を主張するものであって,特別抗告の事由に該当しない。』

 

として、棄却している。

(裁判長裁判官 深山卓也 裁判官 池上政幸 裁判官 小池裕 裁判官 木澤克之 裁判官 山口厚

 

 

特別抗告人 X

相手方 Y

特別抗告理由書

最高裁判所 御中                        

 

(1)緒語

 原審は、京都家庭裁判所平成29年(家)第1237号婚姻費用分担(減額)申立事件、平成29年(家)第1238号婚姻費用分担(増額)申立事件に対して、京都家庭裁判所のなした平成29914日審判を是認し、特別抗告人(以下、「抗告人」という)の抗告を棄却した。

 しかし、婚姻費用分担における未成熟婚外子の取扱いに関する原審の判断には、憲法14条第1項、憲法13条、憲法24条の違反、および憲法解釈の誤りがある。また、原審は、前件審判に拘束され、その判断を維持存続し、終局的に確定させるに等しいが、その法的根拠は一切なく、憲法98条第1項にも違反するものである。

 以下に、理由を述べる。

 

(2)婚姻費用分担において、婚外子の生活費を具体的に考慮しない原審の判断は、憲法14条第1項、憲法13条、憲法24条に違反する。

 本件において、抗告人と同居する3人の婚外子が抗告人から扶養を受ける権利は、民法877条第1項による親子関係の効果によるものであり、その存在は自明である。そして、その権利は、憲法13条個人の尊厳、憲法14条第1法の下の平等に照らし、相手方と同居する嫡出子の権利と同等のものである。

 ところで、家事事件手続法第39条に定められる婚姻費用分担の審判について、最高裁判所昭和40630日決定(昭和37年(ク)第243号)によると、婚姻費用分担に関する争いにつき、分担請求権自体の存否については純然たる訴訟事項であり、その分担額を具体的に形成決定するのが家事審判事項であると説示している。すなわち、婚姻費用分担審判においては、民法760条に明記される婚姻関係における扶養の実体的権利義務の存在は、自明であり前提とされるのと同様に、民法877条第1項に明記された子どもの扶養を受ける実体的権利の存在も前提とされねばならない。また、本件において、婚姻費用分担の根拠たる婚姻関係が存続する以上、民法752条に明記される相互扶助義務も前提であり、抗告人の婚外子と嫡出子への等しい扶養義務に対する相手方の扶助義務が前提とされねばならない。よって、婚姻費用分担審判において、婚外子の扶養を受ける権利を一定に考慮せねばならないことは当然であるばかりか、その権利を嫡出子のものと同等に考慮することを前提としなければならない。

 そして、原審は、婚姻費用分担を具体的に形成決定する根拠として、最高裁判所平成18426日決定(平成18年(許)第5号)にて合理性が是認された、いわゆる標準的算定方式を採用しているのであるから、標準的算定方式においても、婚外子は一定に考慮されなければならないのみならず、嫡出子と等しく考慮されなければならない。言い換えると、標準的算定方式によって婚外子を嫡出子と公平に取り扱わないにも関わらず、婚姻費用分担の形成決定が婚外子にとって結果的に公平なものであるという論理は成り立ちえないのである。

 ところが、原審では、標準的算定方式において、つまりは婚姻費用分担の形成処分において、婚外子が嫡出子と同等に考慮されないどころか、「本件における一切の事情を考慮して」、婚外子である「上記3名の子を具体的に考慮しない」とされた。すなわち、婚姻費用分担において、婚外子の嫡出子と等しく扶養を受ける実体的権利は存在を前提とするものであっても、「一切の事情」を考慮して、婚外子には扶養を受ける具体的形成的権利はないと原審は判断するものである。

 しかし、胎児や乳幼児である子どもに、扶養を受ける具体的形成的権利を減ずるべき有責性等の事由は存在せず、婚姻費用分担において婚外子の生活費を考慮しないことと、原審の説示する抗告人の不貞行為や収入等の「一切の事情」との間に、合理性、関連性は何ら見出だせない。また、婚姻費用分担に関する判例において、子どもが嫡出子である場合、「一切の事情」により、嫡出子の生活費を考慮しない旨の判示したものは一つも存在しない。

 すなわち、原審の婚外子に対する取り扱いは、「門地」によるものにほかならず、最高裁平成2594日決定(平成24年(ク)第984号)にて判示された「子にとっては自ら選択ないし修正する余地のない事柄を理由としてその子に不利益を及ぼす」差別的取り扱いであり、原審は、「事柄の性質に応じた合理的な根拠に基づくものでない限り、法的な差別的取扱いを禁止する趣旨である」憲法14条第1項に、直ちに違反し、個人の尊厳を定めた憲法13条、憲法24条にも違反するものである。

 なお、原審は、「婚姻費用の分担金は、公平の観点から一切の事情を考慮して定められるものであって」「上記3名の子の生活費を具体的に考慮しなかったからと言って、ただちに上記3名の子らの養育を受ける権利を侵害し、憲法141項に違反するとはいえ」ないと説示するが、婚姻費用分担において嫡出子の生活費を具体的に考慮する一方、婚外子を考慮しないという、合理的根拠のない差別的取り扱い自体が、憲法14条第1項に違反するものにほかならず、原審の説示は憲法解釈の誤りである。さらに、婚外子の「生活費を具体的に考慮しない」ことは、標準的算定方式において婚外子を考慮しないことであるが、原審は標準的算定方式を基礎として、婚姻費用の具体的形成処分をしているのだから、その算定結果すなわち形成決定が、嫡出子と等しく養育を受ける婚外子の権利を侵害するのは自明であり、その権利の侵害に合理的な理由がないが故に、原審は憲法14条第1項に違反するものといわざるを得ないのである。

 

(3)前件審判の判断を維持存続させる原審は、前件審判の形成決定を終局的に確定させるに等しいが、その合理性、法的根拠はなく、憲法98条第1項にも違反する。

 ところで、原審は、前件審判による婚姻費用分担の形成決定に、あたかも既判力あるかのごとく拘束され、その判断を維持存続させるものである。しかし、婚姻費用分担の審判は非訟事件手続であるところ、弁論主義、処分権主義に基づく訴訟事件手続における既判力はなく、その形成決定は規定の有無にかかわらず取消し、変更が可能とされる。さらに、即時抗告をすることができる終局決定は、非訟手続法第59条及び家事事件手続法第78条による取り消し変更ができないが、最高裁平成161216日決定(平成16年(許)第20号)によると、非訟手続は裁判所が後見的立場から裁量により私的な権利関係を形成する性質を有しており、裁判が不当な場合には、職権でこれを取り消し、又は変更することができるとされる。すなわち、前件審判における婚姻費用分担の形成決定は、終局的に確定されたものでなく、取り消し変更は当然に可能なものである。

 そして、既に6年以上にわたり、存在が自明の婚外子の扶養を受ける実体的権利は、前件審判によって具体的形成的にないものとされており、その上、原審が、前件審判の判断を維持することは、抗告人と婚外子の親子関係の存在を前提にしつつ、婚外子が抗告人から扶養を受ける権利がないことを、審判によって終局的に確定させるに等しいものである。しかしながら、その様態は民法877条第1項に衝突し、法的根拠がないのであり、訴訟手続によって終結的に確定させうるものではない。すなわち、前件審判を維持する法的根拠は一切存在せず、それを維持することは相当ではない。

 そもそも、婚姻費用分担審判において親子関係の存在を前提とする以上、婚外子を考慮するのが、法に矛盾しない合理的な通常の判断であり、一時的であるにせよ、それに相反する前件審判の判断に、合理的根拠はなく、上述のように民法および憲法に違反する不当なものである。さらに、その判断を維持存続させ、終局的に確定させることは、家事事件手続法第39条に基づく家事審判の構造に相反するばかりか、民法877条第1項、憲法14条第1項、さらに憲法98条第1項にも違反し、婚外子の権利を著しく侵害するものであって、法による正義に明らかに反するものである。よって、婚外子に関する前件審判の判断は、維持されるべきではなく、民法第880条の「事情の変更」の有無にかかわらず、直ちに取り消し、変更がなされねばならないものである。

 

4)結語

 よって、抗告の趣旨記載の通り裁判を求める。

 

附属書類

1 特別抗告理由書副本  7通

以上

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