許可抗告の現実

大阪高裁平成29年12月8日決定(平成29年(ラ)第1204号)(裁判長裁判官 河合裕行 裁判官 濱谷由紀 裁判官 丸山徹)では、

 

名古屋高裁平成28年(ラ)第442号による

『重婚的内縁関係から派生した婚外子の存在を考慮するのは信義則に反すると主張するが、婚外子は嫡出子と同様、抗告人から等しく扶養を受ける権利を有する』

とした判断と相反し、

 

『不貞関係から出生したことを含む一切の事情を考慮して、婚姻費用算定に婚外子の生活費を考慮しない』

とする判断をしている。

 

その判断は、上記の名古屋高裁によって取り消された

岐阜家裁中津川出張所平成28年(家)第76号

非嫡出子に対する扶養義務を果たすために相手方に対する婚姻費用の減額を認めることは、申立人の不貞行為を助長ないし追認するも同然であり、信義誠実の原則に照らし、認められない』

と実質的に同等の判断である。

 

上記大阪高裁決定について、特別抗告(最高裁判所第一小法廷平成30年(ラ)第242号)と同時に、以下のように、許可抗告が提起されているが、

 

阪高裁は、

高等裁判所の決定に対する抗告の許可は,家事手続法第97条2項により,その決定について,最高裁判所判例(これがない場合にあっては,大審院又は上告裁判所若しくは抗告裁判所である高等裁判所判例)と相反する判断がある場合に限られるところ,本件は,同項所定の場合に該当しないというべきである』

として、抗告を許可しなかった。

 

 

平成29年(ラ許)第405

(原審・大阪高等裁判所平成29年(ラ)第1204

原原審・京都家庭裁判所平成29年(家)第1237号、同第1238号)

申立人 X

相手方 Y

抗告許可申立て理由書

(1)緒語

 原審は、京都家庭裁判所平成29年(家)第1237号婚姻費用分担(減額)申立事件、平成29年(家)第1238号婚姻費用分担(増額)申立事件に対して、京都家庭裁判所のなした平成29914日審判を是認し、抗告人の抗告を棄却した。

 しかし、婚姻費用分担において婚外子を考慮しない原審の判断は、民法877条第1項の違反、および家事事件手続法第39条の解釈の誤りによるものである。また、婚外子の誕生を「事情の変更」としない原審の判断は、名古屋高裁平成28年2月19日決定(平成27年(ラ)第442号)に相反するが、民法877条第1項の違反、民法880条の解釈の誤りによるものである。そして、前件審判の判断を維持存続させ、終局的に確定させるに等しい原審の判断は、民法877条第1項の違反、家事事件手続法第39条、および民法880条の解釈の誤りによるものである。さらに、原審による婚姻費用分担の形成決定は、最高裁平成18年4月26日決定(平成18年(許)第5号)にて合理性が是認されたいわゆる標準的算定方式による結果から逸脱し、合理的根拠、および民法第760条、民法第877条第1項に基づく法的根拠を有しないものであり、不当である。

 よって、最高裁判所に対して、原審を破棄し、更なる相当の裁判を求めるため、抗告を許可することを求める。

 以下に、理由を述べる。

 

2)婚姻費用分担において婚外子を考慮しない原審の判断は、民法877条第1項の違反、および家事事件手続法第39条の解釈の誤りによるものである。

 家事事件手続法第39条別表第22号に定められる婚姻費用分担事件は、非訟事件手続きたる家事審判事件であるが、最高裁判所昭和40630日決定(昭和37年(ク)第243号)によると、婚姻費用分担に関する争いにつき、分担請求権自体の存否については純然たる訴訟事項であり、その分担額を具体的に形成決定するのが家事審判事項であると説示している。すなわち、婚姻費用分担の審判において、「夫婦は、その資産、収入その他一切の事情を考慮して、婚姻から生ずる費用を分担する」との民法760条に明記される夫婦間の扶養の実体的権利義務の存在は、自明であり前提とされるのと同様に、「直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養する義務がある」との民法877条第1項に明記された、子どもの扶養を受ける実体的権利の存在も前提とされるものである。また、婚姻費用分担の根拠たる婚姻関係が存続する以上、民法752条に明記される相互扶助義務も前提であり、本件においては、申立人の婚外子と嫡出子への等しい扶養義務に対する、相手方の扶助義務が前提とされねばならない。よって、婚姻費用分担の審判においては、婚外子の扶養を受ける権利を一定に考慮せねばならないことは当然であるばかりか、その権利を嫡出子のものと同等に考慮することが前提とされるべきである。

 そして、原審は、婚姻費用分担の具体的形成の根拠として、後述のいわゆる標準的算定方式を採用しているのであるから、標準的算定方式においても、婚外子は一定に考慮されねばならないのみならず、嫡出子と等しく取り扱われるべきである。言い換えると、標準的算定方式によって婚外子を嫡出子と公平に取り扱わないにも関わらず、婚姻費用分担の形成決定が結果的に婚外子にとって公平なものであるとの論理は成り立ちえないのである。

 ところが、原審では、標準的算定方式において、すなわち婚姻費用分担の形成処分において、婚外子を嫡出子と同等に考慮しないどころか、一切考慮していない。しかも、原審の説示する「一切の事情」に、具体的形成的に婚外子の扶養を受ける権利を減ずる程度の、少なくともその権利をないものとする程度の合理的な根拠は、何ら存在しない。すなわち、原審は、家事審判における具体的形成処分を逸脱し、婚外子の実体的権利を否定するものにほかならない。よって、その原審の判断は、民法877条第1項の違反、および家事事件手続法第39条の解釈の誤りによるものである。

 

3)前件審判にて予測し得なかった婚外子の誕生を「事情の変更」としない原審の判断は、名古屋高裁平成28年2月19日決定(平成27年(ラ)第442号)に相反し、民法877条第1項の違反、および民法880条の解釈の誤りによるものである。

 名古屋高裁平成28219日決定(平成27年(ラ)第442号)は、婚姻費用分担調停後に婚外子が誕生したことを事由として婚姻費用分担の減額申立をした裁判例であり、重婚的内縁関係から派生した婚外子の存在を考慮するのは信義則に反するとの主張は採用できない旨、婚外子は嫡出子と等しく扶養を受ける権利がある旨、予測し得なかった婚外子の誕生は、婚姻費用分担額を変更すべき「事情の変更」に該当する旨が説示され、標準的算定方式によって、婚外子と嫡出子が等しく取り扱われ、婚姻費用分担金が決定された。

 一方、原審は前件審判後の予測し得なかった婚外子3子の出生を、民法880「扶養をすべき者若しくは扶養を受けるべき者の順序又は扶養の程度若しくは方法について協議又は審判があった後事情に変更が生じたときは、家庭裁判所は、その協議又は審判の変更又は取消をすることができる」との類推による、婚姻費用分担額を変更すべき程度の「事情の変更」とは認めなかった。

 しかし、民法880条は実体的権利関係の変動等により、家事審判による形成決定の変更を可能にすることが立法趣旨であり、婚外子の誕生は、民法877条第1項に明記される扶養を受ける実体的権利が自明の未成熟者の数に変更が生じたことにほかならず、民法880条に規定される「事情の変更」であることは自明である。そして、扶養を受けるべき未成熟子の数の変更が、前件審判の内容をそのまま維持させることが当事者間の衡平を害するおよそ相当でない「事情の変更」であることもまた自明である。

 さらに、前件審判時に扶養を受ける具体的形成的権利が認められなかった、1歳の婚外子と胎児が、現在6歳、4歳に成熟している事情を加えると、「事情の変更」とされるべきなのは、なおさら明らかである。もっとも、原審は、嫡出子については、その成長を婚姻費用を変更すべき「事情の変更」とする一方で、婚外子の成長、婚外子胎児の誕生、予測されない婚外子の出生までをも「事情の変更」と認めておらず、その判断は、合理的であるとも、婚外子にとって中立公正であるとも、到底言えないものである。

 すなわち、予測し得なかった第3子の婚外子の誕生を、婚姻費用分担額を変更すべき程度の事情の変更としない原審の判断は、民法877条第1項の違反、および民法880条の解釈の誤りによるものである。 

 

(4)前件審判による形成決定を維持する原審の判断は、婚外子の扶養を受ける実体的権利をないものと終局的に確定するに等しく、民法877条第1項の違反、家事手続法第39条および民法880条の解釈の誤りによるものである。

 ところで、原審は、民法880条の類推による婚姻費用分担の形成処分の変更について、「婚姻費用の分担額の増額減額は、本件決定後の事情の変更により、本件決定額を維持することがおよそ相当でない場合に限って、許されるものと解すべきである」と説示し、前件審判の判断を維持、存続させているものの、上述したように「事情の変更」の存在は明白であって、それを維持する判断は、原審が説示する「事情の変更」を根拠としたものではない。それは、前件審判に訴訟事件手続きにおける既判力があるかのごとく、拘束されねばならないとの誤った解釈によるものである。

 家事事件手続法第39条に規定される婚姻費用分担の審判は、非訟事件手続であるところ、弁論主義、処分権主義に基づく訴訟事件手続における既判力はなく、その形成決定は民法880条等の規定の有無にかかわらず取り消し、変更が可能とされる。さらに、非訟手続において即時抗告をすることができる終局決定は、非訟手続法第59条による取り消し変更ができないが、最高裁平成161216日決定(平成16年(許)第20号)によると、非訟手続は裁判所が後見的立場から裁量により私的な権利関係を形成する性質を有しており、裁判が不当な場合には、職権でこれを取り消し、又は変更することができるとされている。すなわち、前件審判における婚姻費用分担の形成決定は、終局的に確定されたものでなく、取り消し変更は当然に可能なものである。

 そして、既に6年以上にわたり、存在が自明の婚外子の扶養を受ける実体的権利は、前件審判によって具体的形成的にないものとされており、その上さらに、原審が前件審判の判断を維持することは、婚外子と申立人の親子関係の存在を前提にしつつ、婚外子が申立人から扶養を受ける権利がないことを、審判によって終局的に確定させるに等しいものである。しかしながら、その様態は民法877条第1項に衝突し、法的根拠はないのであり、訴訟手続によって終結的に確定させうるものではない。すなわち、前件審判を維持する法的根拠は一切存在せず、それを維持することは相当ではない。

 そもそも、婚姻費用分担審判においては、親子関係の存在を前提とする以上、婚外子を考慮するのが、法に矛盾せず合理的な通常の判断であり、一時的であっても、それに相反する前件審判における判断に、合理的根拠はなく、上述したように、民法877条第1項に違反し、家事事件手続法第39条の解釈の誤りによる不当なものである。さらに、その判断を維持、存続させ、終局的に確定させるのは、法的根拠なく、法に違反し、婚外子の権利を著しく侵害するものであって、法による正義に明らかに反するものである。よって、婚外子に関する前件審判の判断は、「事情の変更」の有無にかかわらず、直ちに取り消し、変更がなされねばならないものである。

 

5)原審の婚姻費用分担金は、最高裁平成18426日決定(平成18年(許)第5号)にて合理性が是認された標準的算定方式による形成処分を逸脱し、その合理的根拠、法的根拠が一切ない。

 平成18426最高裁決定(平成18年(許)第5号)は、民法760条を法的根拠とする婚姻費用の分担に、当事者と扶養を受けるべき子が同居していると仮定し、各々の生活費指数を考慮し、婚姻費用を按分する、いわゆる標準的算定方式を用いた広島家裁平成17819日審判(平成17年(家)第534号)の判断を、「合理的なものであって、是認することができる」と判示した。

 原審は、婚姻費用分担の形成処分に、合理性および法的根拠として、上記の標準的算定方式を採用するものである。しかし、標準的算定方式にて考慮されるべき婚外子、すなわち扶養をうける実体的権利が自明の子どもの生活費指数を、合理的理由なく、一切に考慮していない。よって、原審による婚姻費用分担金は、外観上標準的算定方式を用いたものであっても、その手続に瑕疵がある故、もはや標準的算定方式によるものと言えない。すなわち、原審による婚姻費用の具体的形成決定は、合理性、および民法第877条第1項、民法760条に基づく法的根拠を一切に失ったものである。

 また、原審は、教育費としての特別経費に関して、申立人と相手方の収入の合計が、標準的算定方式における平均収入を大きく上回るため、嫡出子の生活費、教育費が平均を大きくうわまわる旨説示しており、超過教育費を考慮する合理的根拠がないとするものである。しかし、そもそも婚姻費用分担金に慰謝料的、懲罰的趣旨を含む法的根拠はないにもかかわず、「一切の事情を考慮して」との説示により、相手方の稼働能力の大幅な変更などの事情の変更すら考慮せず、前件審判における特別経費を上乗せする判断を理由なく維持している。さらに、その判断による実際の婚姻費用分担額は、生活保持義務を基礎とする標準的算定方式の理論的構造を明らかに逸脱したものである。すなわち、婚姻費用の形成処分において、「一切の事情を考慮」し、特別経費を課する原審の裁量には、合理性、法的根拠は何ら存在しておらず、特別経費に関する原審の判断も、合目的的で、法に基づく裁量によるものとは到底言えず、不当なものである。

 以下に、原審が前提とする、婚外子の生活費を考慮しないこと、申立人に特別経費月5万円を負担させることによる、婚姻費用分担金の当事者に対する具体的な按分概算額を示す。なお、特別経費は3人の嫡出子に等しく按分したとする。この実際の算定結果は、適正な手続による標準的算定による結果から大きく逸脱し、その理論的基礎たる生活保持義務を満たしているとさえ、到底言えないものである。

 

相手方

嫡出子第1

嫡出子第2

嫡出子第3

申立人

婚外子1

婚外子2

婚外子3

生活費指数

100

90

90

55

100

55

55

55

特別経費(万円)

 

20

20

20

-60

 

 

 

年按分額(万円)

173.8

176.5

176.5

115.6

113.8

0

0

0

実質生活費指数

100

102

102

67

65

0

0

0

世帯按分額(万円)

642.4

113.8

 

 さらに、原審は、申立人の手取り給与から原審による婚姻費用分担金を減じた結果を想定し、婚外子の扶養を受ける権利を侵害するものではないと説示するが、その説示は、客観的根拠を欠いており、形成処分の根拠に標準的算定方式を採用する一方、職業費、経費等を控除した基礎収入の按分という理論的構造を否定するに同然の矛盾したものであって、相当ではない。

 以上より、原審による婚姻費用分担金は、民法877条第1項、民法760条に明記された実体的権利を反映させたものでも、合理性を是認された標準的算定方式の理論に合致するものでもなく、婚姻費用の形成処分に対する根拠を一切失った不当なものである。

 

6)結語

 よって、最高裁判所に対して、本件決定を破棄した上、更に相当の裁判を求めるため、本件抗告を許可することを求める。

 

附属書類

1 抗告許可申立て理由書副本  7通

以上

 

 抗告許可申立て理由書に、以下の理由を加える。

(1)標準的算定方式において、婚外子を考慮しない原審の判断は、名古屋高裁平成28年2月19日決定(平成27年(ラ)第442号)に相反し、民法877条第1項に違反する。

 上記、名古屋高裁判例では、重婚的内縁関係から派生した婚外子について、嫡出子と等しく扶養を受ける権利があると説示され、標準的算定方式において、婚外子と嫡出子は等しく扱われ、婚姻費用の分担額が定められた。一方原審は、この判断に相反し、「原審申立人が不貞行為に及んだ結果、上記3人の子が生まれたことを含む」「一切の事情を考慮」して、標準的算定方式において、婚外子を一切考慮しないと判示している。

 しかし、原審の説示する「一切の事情」と、何ら非のない婚外子を考慮しないこととの間に、合理性関連性はない。よって、婚姻費用分担の形成処分、すなわち原審がその形成処分の合理性の根拠および基礎とする標準的算定方式において、扶養を受ける実体的権利が自明の婚外子を考慮しないのは、民法877条第1項に違反し、不当である。

附属書類

1 抗告許可申立て理由書(2)副本  7通

以上

 

裁判官 河合裕行 濱谷由紀 丸山徹

裁判官 河合裕行 濱谷由紀 丸山徹