子どもの福祉の観点から婚外子を考慮し婚姻費用を定めた判例(大阪家裁平成26年(家)第1349号)

大阪家庭裁判所平成26年7月18日審判(平成26年(家)第1349号)

 

婚外子の存在を無視したまま婚姻費用分担額を定めるとすれば,申立人の信義則違反の責任を婚外子に負わせる結果となり、子どもの福祉の観点からは相当ではない。』

として、

子どもの福祉を考慮し、前件審判で信義則違反を理由に考慮されなかった婚外子の養育費を考慮し、婚姻費用を定めた裁判例

 

なお、同様に

名古屋高等裁判所平成27年(ラ)第442号では

婚外子は嫡出子と同等に扶養を受ける権利がある」として

標準的算定方式により、婚外子と嫡出子の養育費と同等に考慮し婚姻費用の算定を行っている。

 

一方、

大阪高等裁判所平成29年(ラ)第1204号では、原審 京都家庭裁判所平成29年(家)第1237号、第1238号を是認し

 不貞関係の結果、婚外子が誕生したことを含む一切の事情を考慮して、婚姻費用の算定に、婚外子の養育費は考慮しないとし、6歳、4歳、1歳の3人の婚外子の養育費を無視したまま、婚姻費用分担額を定めている。

 

 

大阪家庭裁判所平成26年7月18日審判(平成26年(家)第1349号)

申立人 A

相手方 B

主文

1 大阪家庭裁判所平成21年(家)第〇〇号婚姻費用分担申立事件について,同裁判所が平成21年◯月◯日にした審判の主文第2項を平成26年◯月以降,次のとおり変更する。

 「相手方(本件申立人)は,申立人(本件相手方)に対し,平成26年◯月以降,毎月金6万円を,当事者の別居状態の解消又は婚姻解消に至るまで毎月末日限り支払え。」

2 手続費用は,各自の負担とする。

理由

第1 申立ての趣旨及び実情

1 申立ての趣旨

大阪家庭裁判所平成21年(家)第〇〇号婚姻費用分担申立事件について,同裁判所が平成21年◯月◯日にした審判の主文第2項の,相手方(本件申立人)が申立人(本件相手方)に対し「平成21年◯月以降毎月金9万円を支払え」と定めを,平成26年◯月分以降の支払を定める部分について取り消す。

2 申立ての実情

 申立人は,平成26年◯月◯日失職したため,婚姻費用分担義務に関する上記審判の変更を求める。

第2 当裁判所の判断

1 本件記録(当庁平成21年(家)第〇〇号,当庁平成25年(家)第〇〇号,大阪高等裁判所平成25年(ラ)第〇〇号の各記録を含む。)によれば,以下の事実が認められる。

(1)当事者等

 ア 申立人(昭和40年◯月◯日生)と相手方(昭和38年◯月◯日生)は,平成8年◯月◯日に婚姻した夫婦であるが,平成18年◯月以降,申立人が,同居していた自宅(以下「自宅」という。)を出て,別居中である。

 イ 申立人と相手方との間には,長男C(平成13年◯月◯日生)(以下「C」という。)及び相手方と第三者との間の子である養子D(平成元年◯月◯日生,平成8年◯月◯日申立人と養子縁組)(以下「D」という。)がおり,申立人と相手方との別居後,相手方が監護している。

 Dは,平成26年◯月まで◯◯高校(通信制)に在籍していたが,同年,8年間の在学期間が満了したことを理由に,同校を退学処分となった。

 Dは,群発頭痛の疾病を有しており,高校を退学になった後である平成26年以降も,無職。無収入である。

 Cは,第一種障害者の認定を受けている。

 ウ 申立人は,相手方との別居後,E(以下「E」という。)と同居するようになり,平成20年◯月◯日,Eは申立人との子F(以下「F」という。)を出産した。

 平成24年◯月◯日,申立人は,Fを認知した。

 Eは,自身も稼働して,相応の収入を得ている。

 エ 平成22年◯月,申立人は,相手方との離婚等を求める訴訟を大阪家庭裁判所に提起(平成22年(家ホ)第◯◯号)したが、同裁判所は,平成23年◯月◯日,申立人の請求を棄却する判決をし,同判決は,平成24年◯月◯日に言い渡された大阪高等裁判所控訴棄却判決(大阪高等裁判所平成23年(ネ)第◯◯号)を経て,その頃確定した。

(2)申立人と相手方との婚姻費用分担審判等

 ア 当庁平成21年(家)第◯◯号

 平成21年◯月◯日,相手方は,申立人に対し,婚姻費用分担審判を申し立てた。

 同年◯月◯日,当庁は,申立人の年収261万6000円,相手方の年収0円,Dは高校生であり成人に達しているものの未成熟子であるなどと認定した上で,重度障害者であるCの医療費(月額3万7900円)及びおむつ代(月額平均1万1240円)の負担を考慮し,申立人に対し,平成21年◯月以降,婚姻費用分担金として月額9万円を相手方に支払うよう命じる審判をし,同審判は,平成21年◯月◯日にされた大阪高等裁判所の抗告棄却決定(大阪高等裁判所平成21年(ラ)第◯◯号)を経て確定した(以下,同審判を「平成21年審判」という。)。

 なお,平成21年審判当時,申立人は,Fの出生の事実やFの申立人の子であることは認識していたものの,認知はしていなかった。

 イ 当庁平成25年(家)第◯◯号

 平成25年◯月◯日,申立人は,平成21年審判後,申立人がFを認知したこと,Dが未成熟子でなくなったことを事情変更の理由として,平成21年審判で定められた婚姻費用の減額を求める審判を申し立てた。

 同年◯月◯日,当庁は,申立人がFの認知を事情変更として主張することは信義則ないし公平の見地から許されない,Dは引き続き要扶養状態にあるなどとして事情変更を否定した上で,申立人の婚姻費用減額申立を却下する審判をし,同審判は,大阪高等裁判所の抗告棄却決定(大阪高等裁判所平成25年(ラ)第◯◯号)を経て確定した(以下,同審判を「前件審判」という。)。

 なお,前件審判において,申立人の年収は293万6000円と認定されている。

 ウ 本件審判

 平成26年◯月◯日,申立人は,失職することを事情変更の理由として,平成21年審判で定められた婚姻費用分担義務の取消を求める審判(以下「本件審判」という。)を申し立てた。

 当裁判所は,同年◯月,本件審判を当庁の調停に付する決定をしたが,申立人は職業訓練校に行くことを理由に調停に出頭せず,今後も平日に裁判所には出頭できないとの意向を示したことから,同年◯月◯日,同調停は不成立となった。

(3)申立人の収入状況

 ア 申立人は,平成7年◯月から◯◯株式会社で稼働し,その後,平成9年◯月から平成19年◯月までは◯◯株式会社(営業)で,平成20年◯月から平成26年◯月までは株式会社G(以下「G」という。)でそれぞれ稼働していた。

 申立人は,Gにおいて,期間を1年とする契約社員として稼働しており,その契約は毎年◯月に更新されていた。申立人は,平成25年◯月◯日にもGとの雇用契約を更新しているが,申立人は契約更新当時,給与差押えを受けていることなどを理由に既にGから退職勧告を受けており,契約が更新されたのは,Gが申立人の後任者を配置するのが平成26年◯月になることを理由とするものであった。

 平成26年◯月◯日,申立人は,Gを退職した。退職理由(離職理由)は,雇用保険受給資格者証によれば,「40」(正当な理由のない自己都合退職)であったものの,申立人の認識している退職理由は,上記のようにGの申立人に対する退職勧奨に基づくものであった。

 申立人は,同年◯月◯日から職業訓練校に通学しており,同日以降,失業給付金として基本手当日額5676円を受給している。

 イ 申立人の従前の収入は,次のとおりであった。

 ① 平成16年 403万8776円

 ② 平成17年 404万3776円

 ③ 平成21年 261万6000円(平成21年審判の認定)

 ④ 平成24年 293万6000円(前件審判の認定)

(4) 相手方の生活状況

 相手方は,Cが重い障害を有していることから稼働することができず,生活保護を受給しながら生活している。

 前件審判以降の相手方からの生活状況には,特段の変更はなく,Cの療育・リハビリテーション費用に月額2万8000円,おむつ代月額1万2000円,飲料代月額1万円程度をそれぞれ支出している。

 2 検討

(1)婚姻費用減額の要否

 平成21年審判及び前件審判確定後,申立人は,稼働していたGを退職し,現在は,失業手当金を受給しながら求職活動を行っているところ,仮に,申立人が再就職できたとしても,申立人の48歳という年齢や契約社員という直近の就労形態,従前の職歴等に照らせば,平成21年審判当時や前件審判当時と同程度の収入を直ちに得られる可能性は必ずしも大きいとは認められず,現時点においては,平成21年審判で定められた婚姻費用の額を維持することが実情に適さなくなったというべきであり,相当程度の事情の変更があったと認められ,婚姻費用減額の必要性があると認められる。

(2)その他の事情変更の有無

 ア Dの状況の変化について

 上記認定のように,Dは,平成26年◯月,在籍していた通信制高校を退学している。Dは,群発性頭痛の疾病を有していることもあって,現時点でも無職,無収入の状態にあり,同居している相手方がDを扶養している状況は,Dが高校在学中であった平成21年審判当時及び前件審判時と何ら変更はない。

 しかしながら,Dが群発頭痛の疾病を有しており,継続的に就労するには相当の困難が伴うことは容易に推察されるものの,当該疾病の存在によりDに稼働能力がないとまでは証拠上評価することはできない。また,仮に,Dに稼働能力が認められないとしても,成年に達した子については,基本的には自助の原則が妥当すると解されるのであって,既に,25歳となったDの養育義務を誰がどの程度負担するかは,親族間の扶養義務として検討・考慮されるべき問題であるから,Dが無職,無収入であって相手方が事実上Dを扶養している事実のみをもって夫婦間の扶養義務に基づく婚姻費用分担の一部としてDの扶養を考慮するのは相当ではない。

 したがって,Dが高校を退学になった平成26年◯月以降,本件においてDを未成熟子として考慮するのは相当ではなく,Dの状況の変化は事情の変更に該当するというべきである。

 イ 申立人によるFの認知について

 平成21年審判後,申立人は,Fを認知しているものの,平成21年審判当時,Fは既に出生しており,Fの出生を申立人は認識していたと認められることからすれば,申立人によるFの認知を相手方が婚姻費用の減額事由として主張することは,少なくとも前件審判時点では,信義則ないし公平の見地から許されないものであったと認められる。

 しかしながら,現時点において,Fの出生から6年,申立人によるFの認知から1年半,平成21年審判に基づく申立人の相手方に対する婚姻費用分担義務が定められてから5年がそれぞれ経過している。このような状態で,今後もFの存在を無視したまま婚姻費用分担額を定めるとすれば,申立人の信義則違反の責任をFのみに負わせる結果ともなりかねず、Fの福祉の観点からは相当ではない。特に,申立人の収入が減少している本件においては,Fの養育に影響を与える程度は,平成21年審判当時に比しても深刻と言わざるを得ない。

 したがって,Fの福祉の観点からは,申立人の婚姻費用分担能力について再吟味をする必要があるというべきであり,申立人によるFの認知も本件における事情変更として考慮するのが相当である。

(3)事情変更の内容を考慮した標準的算定方式に基づく婚姻費用の試算

 ア 申立人の収入

 申立人は,無職であるものの,失業手当金を受給しながら職業訓練校に通いつつ求職活動を行っていることからすれば,近い将来再就職できる可能性があり,申立人には可動能力があると認められる。そして,申立人の年齢や従前の職歴,直近の雇用形態や給与等,現在受給している失業給付金の額等に照らせば,少なくとも従前の申立人の総収入の7割である年額200万円程度の収入を得られる蓋然性があると認められ,婚姻費用分担の基準となる申立人の総収入は年額200万円と認めるのが相当である。

 イ 相手方の収入

 前件審判時と現在の相手方の生活状況に変更は認められないところ,相手方が障害者であるCの監護者であることに照らせば,婚姻費用分担の基準となる相手方の総収入は0円と解するのが相当である。

 ウ 以上から、いわゆる標準的算定方式(なお,申立人の基礎収入については総収入の39パーセントを相当として計算する。)により,申立人が分担すべき婚姻費用を試算すると,次のとおりとなる(千円未満切り捨て)。

(計算式)

① 申立人の基礎収入(月額)

 200万円×0.39÷12=6万5000円

② 申立人らの生活費指数

 100+55(F)=155

③ 相手方らの生活費指数

 100+55(C)=155

④ 申立人が相手方に支払うべき婚姻費用の分担額(月額)(①×③÷[②+③])

 6万5000円×155÷(155+155)=3万2000円

(4)婚姻費用の算定

 上記のように,いわゆる標準的算定方式において試算される申立人が相手方に対して負担すべき婚姻費用は月額3万2000円となるところ,平成21年審判において考慮差rた障害者であるCに関する費用を相手方が負担している状況に変化はないことからすれば,本件においても,当該費用を特別の事情として考慮する必要があり,この点を考慮した申立人が相手がに対して負担すべき婚姻費用は月額6万円と解するのが相当である。

(5)婚姻費用減額の始期

 婚姻費用減額の始期は,申立人が本件審判を申し立てて後であり,申立人がGを退職した翌月である平成26年◯月と解するのが相当である。

 3 よって,主文のとおり審判する。

 裁判官 姥迫浩司