標準的算定方式を実質的に否定し、日弁連新算定表、新算定方式以上の婚姻費用を命じた判例

日弁連新算定方式以上の婚姻費用を命じた判例

 

 

 日弁連平成28年11月、養育費婚姻費用の算定について新算定方式の提言を行った。

https://www.nichibenren.or.jp/library/ja/opinion/report/data/2016/opinion_161115_3.pdf

 これは、現在、養育費婚姻費用を決定するにあたり、広く用いられている標準的算定方式

http://www.courts.go.jp/tokyo-f/vcms_lf/santeihyo.pdf

が低額すぎ、子供の貧困を生じるなどという批判のもと提言されたものである。

 現実には、養育費婚姻費用を決められたとおり受け取っている割合は2〜3割程度と低く、そちらのほうが貧困には大きく関与されていると思われる。

 それは措いても、新算定方式は、養育費婚姻費用の基礎となる基礎収入の割合を標準的算定方式では34%〜42%であったものを、概ね60%以上と2倍弱にすることによって、増額を図っている。

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また、世帯構成員の生活費指数についても変更を行っている。

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 ところで、婚姻費用の算定について、大阪高等裁判所平成29年(ラ)第1204号 裁判官 河合裕行 濱谷由紀 丸山徹(原審 京都家庭裁判所平成29年(家)第1237号、第1238号 裁判官 松井千鶴子)においては、

民法上扶養を受ける権利のある婚外子を考慮せず、嫡出子のみを考慮した上で、標準的算定方式によって、婚姻費用を算定した上に、更に月額5万円もを上乗せして婚姻費用の支払を命じている。

 上記大阪高裁判決では、このようにした算定結果について

『3人の婚外子の生活水準が、嫡出子より著しく低下するとは考えられない』

と説示している。

 これは、養育費婚姻費用の算定において、標準的算定方式の合理性、妥当性を『低額すぎる』として実質的に否定するに等しいものである。

 

 そこで、上記判例について、日弁連の新算定方式に基づき算定を行ってみる。

 上記判例では、義務者の年収が1734万円、権利者の年収が475万円として、月額38万5千円の支払を命じている。

 新算定方式においては、義務者の年収に対する基礎収入の割合はおおよそ60%、権利者の年収に対する基礎収入の割合はおよそ67.5%である。

 また、義務者と同居する婚外子は6-12歳が1人、0-6歳が2人である一方、

 権利者と同居する嫡出子は16-19歳が2人、12-15歳が1人であり、

 それぞれ生活費指数を適用し、婚姻費用の額を求めたところ、月額およそ35万5千円となる。

 

 

年収(万円)

基礎収入率

基礎収入(万円)

申立人

1734

60.0

1040.4

相手方

475

67.5

320.6

 

 

相手方

嫡出子第1

嫡出子第2

嫡出子第3

申立人

婚外子1

婚外子2

婚外子3

生活費指数

47

62

62

55

47

48

45

45

年按分額(万円)

155.6

205.3

205.3

182.1

155.6

159.0

149.0

149.0

月按分額(万円)

13.0

17.1

17.1

15.2

13.0

13.2

12.4

12.4

世帯按分額(万円)

748.4

612.6

 

 

年額(万円)

月額(万円)

婚姻費用

427.8

35.6

 

 よって、上記大阪高判例では、日弁連による新算定方式による算定結果よりも月額3万円も高い婚姻費用の支払を命じていることになる。

 ところで、日弁連の算定方式による具体的な算定結果を見ると、中高生の子どもの一人の費用に、月額15万から20万円、年少の子どもにも月額10万円以上が算定されていることになるが、これほどまでの額が生活保持義務を果たすのに必要なものと言えるのかは甚だ疑問である。

 

 さらに、婚外子は嫡出子と同等に扶養を受ける権利がある』と判示し、標準的算定方式において婚外子と嫡出子とを同等に考慮し、婚姻費用を定めた

名古屋高裁平成27年(ラ)第442号

に判示されたと同様に、本件において標準的算定方式を適用した場合の婚姻費用は、月額およそ21万円である。

 一方、本件において命じられた婚姻費用は38万5千円であるから、標準的算定方式による婚姻費用の実に倍近い婚姻費用の支払を命じていることになる。

 

 

年収(万円)

基礎収入率

基礎収入(万円)

申立人

1734

34

589.6

相手方

475

38

180.5

 

 

相手方

嫡出子第1

嫡出子第2

嫡出子第3

申立人

婚外子1

婚外子2

婚外子3

生活費指数

100

90

90

55

100

55

55

55

年按分額(万円)

128.3

115.5

115.5

70.6

128.3

70.6

70.6

70.6

月按分額(万円)

10.7

9.6

9.6

5.9

10.7

5.9

5.9

5.9

世帯按分額(万円)

430.0

340.1

 

 

年額(万円)

月額(万円)

婚姻費用

249.5

20.8

 

 

 なお、大阪高裁の裁判に対して、許可抗告特別抗告が申し立てられているが、許可抗告については大阪高裁が不許可とし、特別抗告は最高裁に棄却されている。