大阪高裁平成29年(ラ)第1204号 主張書面(1)

平成29年(ラ)第1204号婚姻費用分担(減額、増額)審判に対する抗告事件

  (原審・京都家庭裁判所平成29年(家)第1237号、同第1238号) 

 

抗告人 A

相手方 B

主張書面(1

大阪高等裁判所 御中

                  

(1)相手方主張の誤り

 相手方は、本件非嫡出子の存在は既に「考慮され、その前提ないし基準とされた事情」ないし「予見し得た事情」であり、「事情の変更」はなく、非嫡出子の出生は「元の協議・調停・審判により定められた扶養関係をそのまま維持することが相当でないと認められる程度に重要性を有するものではない」と主張する。

 抗告人は、抗告理由書(1)の(2)〜(4)および抗告理由書(2)の(2)において、相手方の稼働能力の変更および、抗告人が扶養義務を有する未成熟子の増加は、婚姻費用の減額を認める程度に重要性を有する「事情の変更」であり、上記相手方の主張が誤りであることを主張した。

 また、相手方は、抗告人の収入の増加、高額所得、税金の控除、給与の年功等級等により、婚姻費用を減額する必要がない、具体的には当事者の基礎収入の按分において非嫡出子を考慮する必要がないと主張する。しかし、婚姻費用の分担は、民法730条、752条、760条、877条に基づき生活保持義務の考えによるものであるが、実務上は当事者の生活費とされる基礎収入を按分することである。すなわち、相手方主張は、婚姻費用の分担において非嫡出子を考慮する必要性はないということであり、つまりは非嫡出子が嫡出子と同等の生活保持義務を受ける権利を否定する差別的取り扱いにほかならないものである。しかし、その主張は、そのような差別的取り扱いをすることに対して、何ら合理性関連性を有する説明に全くなっておらず、憲法14条第1項違反および、民法の上位の我が国が批准している世界人権宣言第252項、児童の権利宣言第1条 等の条約違反、および憲法98条違反であって誤りである。

 

2)相手方の稼働能力

 相手方は、遅くとも平成29年初めには、実母が理事長、本人も理事である社会福祉法人◯◯◯◯会の◯◯保育園の園長となっている。相手方が保育園の施設長であることは、◯◯保育園のウェブサイトの理事名簿、母親が園長である社会福祉法人◯◯◯◯会◯◯◯保育園のウェブサイトの理事名簿および、平成29101日に開催された◯◯市の保育園就職フェアのウェブサイトより明らかである。

 よって、提出されている平成28年度源泉徴収票の収入よりも大幅な増加がある。厚生労働省による『平成29年度幼稚園・保育所等経営実態調査』によると、私立保育所施設長の平均月収は、545,229円であり、年収に換算するとおよそ650万円であるが、相手方はいわゆる同族経営社会福祉法人の経営者かつ施設長であり、平成28年度の収入からも相手方の保育士としての年収が保育士の平均年収より率にして25%以上も高いことより、相手方の保育園施設長としての年収は650万円の25%増しの800万円程度であると考えられ、婚姻費用の算定にあたり相手方の年収を800万円とするべきである。

 

3)Cの稼働能力

 原審判において、Cは看護師であると事実認定されているが、看護師ではない。また、相手方は「Cが医療関係従事者であるとこはおそらく間違いないところである」と主張するが、Cは知的障がい者施設にて、生活支援員として勤務経験はあるが、医療関係従事者としての勤務経験はなく、何らかの専門職に必要な公的資格、団体資格等も有するものではない。

 また、Cは現在、0歳の乳児、3歳と6歳の幼児を監護しており、到底職につける状態ではなく、無職、無収入であり、婚姻費用の算定にあたり、Cの稼働能力は考慮すべきでない。

 

4)超過教育費

相手方の主張の超過教育費の誤り

 相手方は、長男の全寮制の私立学校の費用を年間1606,780円と主張する。しかし、長男の私立高校の学費のうち、寮管理費、食費、小遣いは、教育費以外の生活費に該当するものである。また、別に主張する補食、飲料水などについても食費に該当するものであり教育関連費ではない。なお、「寮の井戸水が身体に合わず、アレルギーを発症する」と主張するが、医学的に水によるアレルギーは通常生じえず、相手方の独自の見解である。よって、長男の私立学校の教育費については授業料、修学旅行積立金の月額35,000円程度であり、それは長男に按分される標準的算定方式による教育費および生活費にて十分に賄われるものである。また、抗告人の関知しないところで進路を決定し、学校行事等の連絡等もないにも関わらず、長男のみならず相手方の交通費、宿泊費なども計上されており、過分であるとしか言いようがない。以上より、長男の教育費生活費は、非嫡出子の生活費を考慮した場合においても長男に按分される年額約129万円に十分におさまるのであり、そもそも長男の超過の教育費は発生しない。

 また、次男の塾代についても、相手方の判断で必要性が高いとは言いがたい遠方の塾への多大な交通費を含め、更には「これに加えて月4回◯◯教室で行われる本科コースの受講」といった実際には受講していない費用をまで算定しており不当である。更に三男の塾代等についても、突出して高額な月を含んだ3ヶ月分の費用をもってその4倍を年間費用としており、不合理である

 相手方の主張によると、中学3年生の二男の月額の塾等の費用が月額7万円程度、交通費を込めると年間約130万円、小学校6年生の三男の塾代等の費用が月額5万円程度、年間約62万円というのであるが、学力向上を考えても消化できないほど過剰である可能性が高く、子どもの教育費にそのような費用をかけるのは常軌を逸しているとしか言いようがない。

 さらに、相手方の主張する超過教育費を上乗せし婚姻費用を試算したところ、相手方世帯に按分される婚姻費用が年額799万円である一方、抗告人世帯に按分される婚姻費用は−41万円と負数にもいたるのであり、もはや標準算定方式による算定結果の原形をとどめておらず、その主張は不合理であるとしか言いようがいない。

 ところで、阪高裁平成26827日決定(平成26年(ラ)第595号)は私立学校の教育費を考慮して標準的算定方式による試算結果を修正した判例であるが、標準的算定方式による婚姻費用分担金には世帯収入に応じた公立学校以上の教育費が含まれているとされ、当事者の世帯収入1,411万円に対して、教育費相当額は545000円(333,855×1,411万円/8644,154円=545,000円)であると判示されている。よって、以下にも述べるが、相手方が婚姻費用の中に公立学校の教育費しか含まれておらず、15歳〜19歳の子であれば年額333,844円を控除するという主張も上記判例に相反し誤りである。

 また、相手方は超過教育費を当事者の基礎収入額に応じて按分することを主張しているが、上記判例では超過教育費は当事者で等分に負担するのが相当であると判示されており、その主張もまた上記判断に相反し誤りである。

 

本件においての標準的算定方式による教育費

 相手方は、超過教育費について、かかりうる費用をすべて教育関連費として計上し、婚姻費用の増額を主張するが、標準的算定方式の概念構造を破壊し、空文化させるものである。養育費、婚姻費用において、義務者の事前の了解など一定の条件のもと私立学校、塾代等の教育費を認めたとしても、統計等により標準的な教育費を参照し算定するのが妥当である。

 

 ア.相手方世帯の嫡出子の教育費

 そこで、上述の大阪高裁平成26827日決定(平成26年(ラ)第595号)を援用し、本件の婚姻費用のうち、相手方と同居する子どもに対する教育費を試算することとする。

 平成299月以降において、非嫡出子、嫡出子、及び抗告人、相手方の生活費を考慮した場合、標準的算定方式によって算出される基本的な婚姻費用は、月額約16万円である。そこで、権利者である相手方の年収は800万円であることより、標準的算定方式算定表(表18 婚姻費用・子3人表(第1子及び第21519歳、第3014歳))を参照すると、義務者の年収は、およそ950万円となる。よって、仮に、抗告人、相手方、嫡出子3人の5人世帯とした場合、世帯の年収はおよそ1,750万円となる。

 よって、平成299月以降、相手方と同居する長男、二男(一五歳から一九歳)に対する標準的算定方式にて按分される教育費は

であり、三男(〇歳から一四歳)に対する教育費は

 

となる。

 よって、相手方世帯に按分されている教育費は

 676,075×2283,523円=1635,673

である。

 ところで、標準的算定方式にては、平均私立高等学校教育費は763,096円であり、公立中学校教育費134217円、公立小学校59,153円(甲第37号証295頁)である。

  そこで、本件において相手方世帯(長男私立高等学校、二男公立中学校、三男公立小学校)の標準的な学校教育費を算定すると、

 763,096+134,217+59,153円=956,466

となる。

 よって、

 1635673円−956,466円=679,207

 相手方の世帯の教育費は、標準的な学校教育費よりおよそ68多く按分されていることとなる。

 

 イ.抗告人世帯の非嫡出子の教育費

 一方、婚姻費用のうち抗告人と同居する非嫡出子の教育費を計算すると、3人共0歳から14歳であり、嫡出子第三子と等しいので、一人あたり283,523円である。

 よって、教育費の合計は、

 283523×3=85569

 である。

 非嫡出子のうち第一子、第二子は、嫡出子と同様に私立幼稚園に通園しているが、標準的算定方式によると私立幼稚園の標準的な教育費は、32万3,622円であるため、非嫡出子の標準的な教育費の合計は

 32万3,622×2647,244

である。これは、抗告人世帯に按分されている教育費より約20万円多いことになる。

 しかしながら、実際に非嫡出子の教育費は、主張書面(2)4頁、甲第18号証甲第19号証に示したが、月額78万円に上っており、2人の教育費だけでも按分される教育費を超過している。

 以上より、抗告人と同居の非嫡出子の教育費は、標準的算定方式によって、同等に按分されたとしても、それに含まれる教育費を現実には超えている。しかしながら、それらの超過教育費は抗告人世帯のその他の生活費を削減し捻出すべきものであり、同様に相手方と同居する嫡出子の過分な教育費についても、相手方がその世帯の生活費から捻出するべきである。

 

統計資料に基づく学校外活動費

 ところで、塾等の学校外活動費についても、相手方主張のような非現実的で無尽蔵な費用の計上を避けるため、統計資料を参照するべきである。

 一般的に、子ども一人あたりの学校外活動費は、個人の裁量の余地が大きいものであるが、子ども一人あたりに費やすことのできる教育費は、世帯の年収より子ども一人あたりの世帯の年収に相関すると考えるのが妥当であろう。

 そこで、平成26年度文部科学省学習費調査を参照すると、子どものいる世帯の学校外教育費は、公立小学校に通う場合、平均219,304円であり、公立中学校の場合、平均314,455円である。また、平成28年度国民生活基礎調査より児童のいる世帯の平均児童数は1.69であり、児童のいる世帯の世帯所得は7078千円である。よって、平均世帯年収を世帯あたりの児童数で除し、児童一人あたりに換算すると約4188千円となる。

 一方、本件においては、世帯の総収入は、抗告人と相手方の年収を合算しおよそ2,500万円であるが、扶養義務のある子ども数は6人であるから、子ども一人あたりの世帯年収は約4166千円となる。

 よって、上記の考えに基づき、本件において統計資料を用いた場合の標準的な学校外活動費を試算すると

公立小学校の場合

 

であり、

公立中学校の場合

 

となる。

 相手方世帯の標準的な学校外活動費

 218千円+313千円=531千円

となる。

 よって、上述のように相手方世帯には学校教育費を超える費用が約68万円按分されていることになるが、その費用は標準的な学校外活動費よりも15万円程度多い。すなわち、この試算結果からも相手方の主張する学校外教育費が常軌を逸したものであることは明らかであって、本件においては相手方に按分される婚姻費用のうちの教育費は、収入に応じた標準的な学校外活動費さえも十分に含んでいるものと言えるのである。

 一方、私立幼稚園の学校外教育費の平均は141553円であるから、本件における私立幼稚園の学校外活動費は同様に、

である。

 抗告人世帯の標準的な学校外活動費は

 141千円×2282千円

となる。

 よって、上述したように抗告人世帯に按分される学校教育費を超える費用は約20万円であるから、その費用は標準的な学校外活動費よりも8万円程度少ないのである。

 ところで、統計調査からも子どものいる大抵の世帯において学校外活動は一般的なものであろうが、標準的算定方式においてはこれらの学校外活動費は考慮されておらず、かと言って婚姻費用の算定にあたり学校外教育費を特別経費として婚姻費用に上乗せすることが当然とされている訳でもない。すなわち、そもそも婚姻費用の算定において学校外活動費は考慮しないことを前提としており、その費用は各々の世帯で按分された生活費から捻出するのを原則とするものと思われる。

 

小括

 本件において、標準的算定方式によって算定される婚姻費用分担金は、抗告人と相手方の収入に応じた教育費を含み、抗告人、相手方の学歴、出身校、社会的地位等、および標準的な学校外活動費等を総合的に考慮しても十分なものである。

 また、嫡出子、非嫡出子は同等の教育を受ける権利があるのだから、過分に教育関係費を要したとしても、一方の世帯の子どもの福祉を損なわないために、標準的算定方式により公平に按分された生活費の中から、各々の世帯でそれら費用を捻出すべきである。

 よって、抗告人が相手方に対して標準的算定方式を超える教育費を負担するのは相当ではない。